F-16 ファイティングファルコン/F-16 Fighting Falcon
台湾F‐16導入までの経緯、時代背景
1970年代アメリカは高価な新主力戦闘機F‐15イーグル補佐する比較的低コストの軽量戦闘機開発と運用を考え(ハイローミックス)F‐16の歴史をスタートさせました。多用途戦闘機として運用されてきたF‐16は世界24カ国以上で4400機以上が生産されているベストセラー機で、1980年代より台湾は当時最新鋭の第4世代戦闘機F‐16C/Dの導入を希望していました。
しかし、これより前の1978年12月に米中国交正常化、台湾へのF‐16供与に関して中国は反発してアメリカはこの意向に配慮しました。
ただアメリカも台湾の戦力が中国に対して相対的に低くなることは問題であるため、いくつかのF‐16供与についての代替案を提示しました。当時台湾空軍の主力戦闘機であったノースロップF‐5Eを大幅にアップグレードしたノースロップF‐20タイガーシャーク、F‐16エンジンのエンジンをF‐4ファントムⅡのジェネラル・エレクトリックJ79に変更するF‐16/79といった提案です。しかしこれらの提案は台湾から拒否され、国産国防戦闘機(IDF)”通称:経国(チンクオ)”の導入が進む事になります。F‐5E/Fのライセンス生産を手掛けていた漢翔航空工業(AIDC)が数社のアメリカ民間企業の支援を受けながら(アメリカ政府もこれをサポートした)戦闘機を独自開発します。この独自開発戦闘機の国産国防戦闘機(IDF)”経国:F‐CK‐1”は小型のアフターバーナー付きターボファンエンジンの双発機ですが、F−16に似た機体構成が各所に見受けられる機種です。
”経国:F‐CK‐1”は1989年5月28日に初号機初飛行となりましたが、その直後の6月4日に中国に於いて民主化運動を中国政府が武力弾圧する”天安門事件”が起きました。この事件によりアメリカなどは中国に対して制裁を科して、当初予定されていた軍需品の輸出や技術供与等停止等の措置も含まれる事になりました。またこの事件を契機にして、それまで認めてこなかった”台湾へのF‐16への供与”をアメリカが認める事になり、1992年11月に販売合意となりました。
台湾に供与さされたF‐16
台湾は当時最新鋭のF‐16C/Dの導入を希望していましたが、アメリカが売却を認めたのは型落ちのF‐16A/Bの再生産型でした。これはアメリカが中国に対して一定の配慮を行ったものとされています。引き渡されたのはF‐16A/72Bブロック15 OCU(作戦能力向上の意味)と基本的には同じですが政治的意図もあり、F‐16A/Bブロック20の呼称が用いられ1997年〜2001年にかけて計150機が引き渡され、内訳がF‐16A(単座)が120機、F‐16B(複座)が30機です。

”F‐16A/Bブロック20”はエンジンがF‐16C/Dと同じF100−PW‐220E(最大出力は同じでも信頼性が向上)、レーダーはF‐16C/Dに搭載のAN/APG68初期型と同じレベルに引き上げられたAN/APG‐66(V)3に換装されています。他AN/APX‐111敵味方識別装置(IFF)、広視野ヘッド・アップ・ディスプレイ(HUD)等を有しているのが特徴です。当初はAIM−120AMRAAM(Advanced Medium-Range Air-to-Air Missile:新型中射程空対空ミサイル)運用能力はなかったのですが、部隊配備開始頃にはAIM−120C‐5が運用可能になり、2003年にはAIM‐120C‐7(C型の最終バージョン)、空対地ミサイルAGM−65マーベリック、空対艦ミサイルAGM−84ハープーンの運用も可能になっています。
F‐16A/B近代化改修と最新型F‐16Vブロック70/72を導入
台湾はその後F‐16C/Dの当時のブロック52を66機購入を決定して、米国務省も2006年7月に売却を承認しましたが中国の外交圧力によりこれが頓挫することになりました。そこで所有のほぼ全機141機にあたるF‐16A/Bについて”F‐16V‐20”への近代化改修する大幅な能力向上を策定しました。その内容はエンジンをF100‐PW−229に換装(最大推力105.7kN→128.9kN)、レーダーはAN/APG‐83アクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダー、コクピット、電子戦機器、ターゲティングポッド運用能力等の改修を行い、最新型のF‐16V仕様にするとされています。他AIM‐9Xサイドワインダー、AIM−120Cといった最新の空対空ミサイル、GBU−12ペイブウェイⅡ誘導爆弾、AGM‐65マーベリック、AGM‐84L SLAM‐ER、AGM‐154 JSOW等の対地兵装、AGM‐88 HARM対レーダーミサイルも運用されます。
さらに購入が大幅に遅れていた66機は2019年12月に対中強硬姿勢の第一次トランプ政権下の元、F‐16Vの量産型”F‐16Vブロック70を総額80億ドルで購入することが正式調印され、2026年までに完納される見込みとなりました。ただし、66機の新規調達が遅れていることから”F‐16V‐20”の近代化改修を先行実施することとしています。
F‐16V調達計画が完遂されてF‐16V‐20、F16V−70併せて計200機程になるであろうF‐16は台湾空軍戦力の中核を担うことになります。



Data | F‐16V(推定値) |
全幅 | 9.45m |
全長 | 15.03m |
全高 | 5.09m |
主翼面積 | 27.87m² |
空虚重量 | 9,207kg |
総重量 | 9,979kg |
エンジン | ジェネラルエレクトリックF110‐GE‐132またはプラット&ホイットニーF100‐PW‐232(142kN)x1 |
最大速度 | マッハ2+ |
乗員 | 1名 |
保有数 台湾空軍:F‐16A(115機)、F‐16B(27機)←ほぼ全機F‐16V仕様へ近代化改修予定で76程改修済
F‐16V(66機発注済)