IDF/F‐CK‐1 経国  IDF/F-CK-1 Ching-kuo

台湾国産戦闘機”経国(チンクオ)”誕生の背景
 1960年代末期は中ソ対立、1970年代には米中両国関の接近が進み、1972年日中国交正常化を経て1978年に米中国交正常化となり、多くの西側諸国もこれに続きました。これは中国、台湾の関係とその他対外関係にも大きな影響を及ぼし、アメリカも台湾への支援について、中国に対して一定の配慮を働かせることになっていきます。
 1970年代末、台湾は主力戦闘機ノースロップF‐5E/Fの後継機として当時最新鋭のジェネラル・ダイナミクスF‐16の購入をアメリカに申し入れましたが、中国は当然これに反対し、アメリカは中国への意向を尊重してF‐16の台湾への供与を拒否しました。しかし、アメリカも拒否するだけではなく、F‐16供与の代替案としてF‐5Eを大幅に近代化し能力を向上したノースロップF‐20タイガーシャーク、F‐16のエンジンをF‐4ファントムⅡ搭載のジェネラル・エレクトリックJ79に変更するF‐16/79といった内容を提案しました。しかし台湾はこの2つの提案を拒否しました。
 台湾は独自に国産戦闘機を開発することをにして、その開発の主体は台湾のAIDC(航空工業発展中心)が担うことになりました。AIDCはそれまでにF−5E/F戦闘機のライセンス生産や独自開発のジェット練習機AT‐3の製造等の実績がありました。ただ独自の超音速戦闘機の開発の実績もないことでアメリカ民間企業の支援を得ることになり、アメリカ政府もこれを承認することにしました。(アメリカ政府として開発に係わらない形式をとりました。)

F‐CK‐2とF−16B(台湾国防部)

台湾国産戦闘機”IDF(国産国防戦闘機)”の開発
 台湾で独自開発の戦闘機についてアメリカの民間企業が協力することになり、ジェネラル・ダイナミクス(機体フレーム)、ギャレット・エアリサーチ(エンジン)、ウェスチングハウス(レーダー)、リア・アストロノーティクス(飛行操縦装置)の各社が開発支援をしました。
 以上のようなアメリカ民間企業協力を得ながら台湾のAIDCが主体となって開発を進めて1985年に基本設計が決定し、この独自開発機は”IDF(国産国防戦闘機)”と命名されて、経国(チンクオ)(元台湾総統”蒋経国”由来)の愛称も付けられました。1989年5月28日には試作初号機が初飛行、1990年には量産型製造の承認もなされましたが、試作機の墜落事故も影響して台湾空軍への引き渡し開始は遅れて1994年1月になりました。制式名称はF‐CK−1(単座)とF‐CK‐2(複座)です。
台湾国産戦闘機”IDF(国産戦闘機)”の概要
 機体はエンジンがギャレット(現アライドシグナル)が開発した小型のアフターバーナー付きターボファン(TFE1042−70)の双発機で中翼配置の主翼をブレンデッド・ウィング・ボディ方式で胴体に溶け込ませるF‐16に似た形状が見られます。胴体左右下側に楕円形の固定式空気取り入れ口が配置されています。
 飛行操縦装置はリア・アストロノーティクス製のデジタルフライ・バイ・ワイヤで操縦桿がF‐16と同じサイド・スティック方式となっています。
 機首のレーダーはロッキードマーチンAN/APG‐67(V)に改良を加えた台湾国産の金竜53(GD‐53)を装備しています。AN/APG−67はF‐16A/Bが装備したウェスチングハウスAN/APG66の発展型で150kmの探知能力、下方目標の補足(ルックダウン/シュートダウン)能力も有して複数目標との交戦機能も備えています。
 武装は20mmバルカン砲1門の固定武装、両主翼端に短射程ミサイル、主翼下側に片側3ヶ所ずつ、胴体中心線上に半埋込み式2ヶ所の搭載ステーションが設けられています。 

ほぼフル兵装のF‐CK‐1B/D(internet)

国内開発国産の搭載兵器も
 台湾国内でライセンス生産され備蓄も豊富とされる短距離赤外線誘導空対空ミサイルAIM‐9P4サイドワインダー、中距離空対空ミサイルAIM‐7スパローといった兵器も”経国”では運用されますが、
空対空ミサイルを中心に国内開発がなされています。中山科學研究院(NCSIST)が独自開発した短距離赤外線誘導ミサイル天劍一型(TC‐1)、中距離空対空ミサイル天劍二型(TC‐2)があります。TC‐2はアメリカが中国への配慮からAIM‐120 AMRAAMの輸出を認めなかったため独自開発されたもので慣性誘導+アクティブレーダー誘導で射程が60km程で、射程の延伸化を図り、更に対レーダーミサイル天劍2A(TC‐2A)、艦対空ミサイル海劍2型(TC‐2N)等の派生型も製造されています。TC‐2は”経国”の胴体中心下に前後2発搭載できますが、主翼下にも2発搭載されるよう改良がされました。

天劍二型飛彈(TC‐2)(國家中山科學研究院)

 空対地兵装は通常爆弾、空対地ミサイル、クラスター爆弾、ロケット弾ポッドの搭載も可能です。対艦兵装は雄風2型(HF‐2)対艦ミサイルを最大3発搭載可能です。HF‐2は推進がターボファンエンジン、慣性誘導+アクティブレーダーor画像赤外線誘導方式、射程80kmです。2023年の台湾空軍オープンハウスでは一般公開は珍しいとされる、小型クラスター弾を内蔵した空対地スタンドオフウェポン萬劍彈(ワンジンタン)も展示されました。推進はターボファンエンジン、速度マッハ0.8の巡航ミサイル、射程は200km、改良型の萬劍彈Ⅱは400kmとも伝えられています。クラスター爆弾による敵基地滑走路の破壊と無力化を狙ってのものとされていますが、地下バンカー攻撃のコンセプトに近いミサイルであるとの見方もなされています。

萬劍彈を2発搭載のF‐CK‐1経国(自由時報)
構成上、万剣ミサイルは背面上部に一対の折りたたみ式飛行翼面を備え、X字型の尾翼舵が尾部の翼面を制御します。ミサイル後部にはターボエンジンが搭載され、主武装部は前部中央部に配置されています。前方の白い弾頭は誘導・制御ユニットです。(國家中山科學研究院HP)

近代化改修
 F‐CK‐1”経国”は単座のF‐CK‐1Aが104機、複座のF‐CK‐1Bが27機導入されましたが、2001年に能力向上改修を決定して、遅れること2009年より作業が開始され、2014年1月に単座と複座の計71機を改修を終了しました。改修型は単座がF‐CK‐1C、複座がF‐CK‐1Dと呼称されます。
 改修の主な内容は◇燃料搭載量の増加、◇飛行操縦コンピューターの改良、◇ミッションコンピューターの能力向上、◇新しい電子線システムの装備、新しい発達型敵味方識別装置の装備、◇レーダーへの地形追随機能の追加、◇主翼したハードポイントの強化と最大離陸重量増大により運用できる兵器を増加(具体的には天劍二型(TC‐2)空対空ミサイルの搭載数2→4に増加等)、となっています。
 台湾空軍の主力はF‐16V‐20/70となりますが、F‐CK‐1”経国”はその補完戦力と位置づけられます。
 またAIDCはF‐CK‐1の基本設計を使用した高等練習機T‐5”勇鷲(ヨンイン)”を開発し、2020年6月初飛行、2021年11月に台湾空軍に引き渡しが開始されました。

複座型F‐CK‐1D。高速道路離着陸訓練の一コマ(李智為)
DataF‐CK‐1A
全幅8.53m
全長14.21m
全高4.65m
主翼面積24.3m²
運用自重6,486kg
最大離陸重量13,347kg
エンジンアライドシグナル/AIDC TFE1042−70(ドライ26.8kN、A/B41.1kN) x 2
燃料容量2,517L(機内)+
1,041L(増槽) x1,568L(増槽)x2
最大マッハ数マッハ1.8
最大水平速度700kt
海面上昇率15,240m/min
実用上昇限度16,460m
固定武装M61A1 20mmバルカン砲 x 1
兵装機外最大搭載量907kg(空対空兵装のみ)
3,901kg(空対地兵装最大)
戦闘行動半径540nm(Hi‐Lo‐Hi)
最大航続距離1,230nm(標準燃料)
荷重制限+9G/−3G
乗員1名

保有数 台湾空軍:F‐CK‐1A/C(103機)、F‐CK‐1B/D(25機)、
         ほぼ全機(127機) F‐CK‐1C/Dに改修

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By chikumade233

中国人民解放軍主要装備他、気の向くままに軍事に関して掲載します。

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