殲撃20/Jianji20/威龍
独自開発のステルス(?)機の登場
2010年12月20日に、タキシング試験中の写真がインターネット上に流出したことで存在が一般に明らかになったのが”殲撃20”です。2016年10月に珠海での中国国際航空宇宙博覧会に出展され、公式に”殲撃20”として紹介されました。
殲撃20の初飛行は2009年9月中旬との情報もありましたが、2011年1月11日というのが定説となっています。2017年3月10日に人民解放軍で実用就役の開始になりました。
中国側からの公式発表はもちろんありませんが、写真等の情報が出回った当初から”殲撃20”は「中国ステルス機」「中国版第5世代戦闘機」といわれてきました。”全体が黒く塗られていること”、”RCS(レーダー反射弾面積)を小さくするため胴体内兵器倉を有していること”、”パネルの縁や一部の外板の継ぎ目がギザギザになっている”、といったステルス性を強く意識した設計になっていると見られることからその注目を集めました。
機体の特徴
双発の大型戦闘機でそのサイズが米国のF−22戦闘よりも大きく、世界一巨大なステルス機と揶揄されました。
主翼は大面積のデルタ翼で翼端部が切り落とされていて、前縁は直線、付け根部では小さな前縁頂部が前方に延びています。その先端位置に翼端を切り落とした全誘導式のカナード翼があります。尾翼は水平安定板のない双垂直安定版形式で大きく外側に傾斜しています。垂直安定板に方向舵はなく、付け根部付近で分割されていて全体が動き、それによって方向操縦に使用されます。左右両垂直安定版の下側の位置には外側に傾斜した固定翼フィンも付いています。
空気取り入れ口は固定型で、胴体側部に膨らみを持たせたダイバーターレス超音速インレット(DSI)になっていてステルス性に寄与していると考えられます。
カナード翼、全遊動式垂直安定板とその下の固定翼フィンといった機体構成はステルス性に不利な要素とされ、そのステルス能力を疑問視する見方もあります。

開発〜運用開始後の段階的能力向上
2011年1月11日に試作初号機が成都で初飛行しました。エンジンはSu−27”フランカー”用のサチュルン/リューリカAL−31Fを搭載し、機体塗装は黒色でした。
以降2015年11月24日初飛行の試作最終機とされる機体まで数機試作機が確認されていますが、この間ステルス性型エンジン排気口、DSIの形状変更、チャフ/フレア・ディスペンサーの装備等が段階的に施されました。
2016年12月12日に量産型が人民解放軍空軍に引き渡しの開始、2017年から運用開始になります。
一方J−20”殲撃20”に求められる性能として”超音速巡航性能”、”高い機動性”があるなかで、当初J−20に搭載されていたロシア製AL−31Fエンジンは能力不足であり、J−20用の国産エンジン開発がすすめられていました。2019年より中国製”フランカー”にも採用されている過扇10(WS−10)が搭載されるようになります。過扇10エンジンの推力はB型で約12.5トン、C型で約14.9トンです。(J−20は双発機でx2)
更に2023年には新型の国産ターボファンエンジンのWS−15の搭載が確認されています。WS−15の推力は約18〜19トンと推測されています。これは米国ステルス機F−22搭載のプラット&ホイットニーF119、F−35搭載プラット&ホイットニーF135の両エンジンの推力と比較し、匹敵するか上回ることになります。WS−15はステルス性を考慮した形状、スーパークルーズ(超音速巡航)能力を有ること、推力偏向ノズルの採用が特徴として挙げられています。以上の特徴はJ−20に低速飛行時の機動性の向上、高高度飛行の性能の向上、兵器搭載能力の向上、発電能力の向上による高性能レーダーが搭載可能になったこと等に寄与すると考えられます。

主要装備・兵装等
詳細は不明ですが機種レドーム内のレーダーで、タイプ1475(あるいはKLJ−5)と呼ばれるアクティブ電子走査アレイ(AESA)型のものが使用されています。このレーダーは2200個の先進的探測モジュールから構成されるとされます。機首下部にはEOTS−86電子光学ターゲティングシステム、機体6ヶ所にEORD−31赤外線捜査追尾システムの装備がなされています。
搭載兵器は胴体内の兵器倉への搭載が基本で、主体は空対空ミサイルです。視程外射程(BVR)空対空ミサイルがPL−12(射程120km)、PL−15(射程200km以上)、PL−21(射程200km以上)、視程内射程(WVR)空対空ミサイルはPL−8(射程15km)、PL−10(射程60km)です。(射程については諸説あり)PL−15、PL−21についてはその射程距離から友軍の早期警戒管制機(AWACS)との連携で敵のAWACSを長距離から無力化するなどの運用が想定されます。兵器倉内の搭載数はBVR空対空ミサイルが中央胴体内下部の主兵器倉に最大6発、WVR空対空ミサイルが左右空気取り入れ口トランクに設けられた側方兵器倉に各1発で計8発です。

加速する生産ペースと次期形態複座型
中国は既にJ−20を200機以上生産しているとの推測もあり、米国が予想していた生産速度を上回るペースでそれを加速させているようです。中国側の報道ではJ−20は北京、瀋陽、済南、南京、広州、蘭州、成都の5大戦区全てにおいて配備されていて、台湾周辺に於いてJ−20が哨戒任務に投入されていることも確認されているとされます。
J−20を生産する「成都航空集団」は生産ラインの新設・稼働を進めているともされ、2030年頃までに”J−20系列戦闘機は1000機を超える”との見方もあります。
米国がJ−20の継続的な改良に関心を寄せているとされますが、その内容は上述のように高出力エンジンWS−15の搭載による超音速巡航能力の獲得、ステルスモードでの搭載可能な空対空ミサイル数の増加等もありますが、”複座型J−20”の存在も憂慮される存在のようです。2021年3月、SNS上に”複座型J−20”の写真と映像は公開されました。この複座型の後部座席は共同作戦能力を備えた無人機を管制するためと考えられています。第5世代戦闘機”J−20”とAI搭載の無人戦闘機からなる編隊編成です。無人機を脅威度の高い空域に先行させ、これをセンサーとして敵位置の把握、また兵装を搭載してこれを追加の弾薬庫として用いることを考慮するとされます。これにより第5世代戦闘機”J−20”の作戦効率と攻撃能力の向上させ得ることとなります。


Data | 殲撃20(推定値) |
全幅 | 12.88m |
全長 | 20.30m |
全高 | 4.45m |
主翼面積 | 78.0㎡ |
空虚重量 | 19,391kg |
最大離陸重量 | 36,288kg |
エンジン | 瀋陽−黎明 過扇10B(ドライ96kN、 A/B 145kN)x2 |
最大速度 | マッハ1.8 |
戦闘行動半径 | 1,188nm |
乗員 | 1〜2名 |
保有数 中国人民解放軍空軍:殲撃20(200機以上)