殲撃10 / Jianji10 / 猛龍

無尾翼デルタ・カナード翼

1967年にスウェーデンがサーブ37ビゲンの試作機を初飛行させると、無尾翼デルタと前翼(カナード翼)を組み合わせた機体構成は世界から注目を集めました。現在NATOの主力戦闘機であるスウェーデンのサーブJAS39グリペン、フランスのダッソー・ラファール、共同開発のユーロファイター・タイフーンはいずれもこの機体構成になります。
 J-10/殲撃10もこの機体構成になりますが、主な特徴として無尾翼デルタは通常形式に比べ安定性に劣るのですが、言い換えると敏捷性に優れた機体構成と言うことになります。

開発経緯

殲撃9型(J−9)の計画名で1960年代中期に新戦闘機の研究が開始され、1975年ごろに最終設計仕様とされるカナード翼つき無尾翼デルタの模型で風洞実験も行われていたとされていますが、計画段階で開発は中止されました。1986年1月に開発が認められた殲撃10型(J−10)は殲撃9型と同じくカナード翼つき無尾翼デルタの機体構成ですが、いくつかの相違点もあります。一番の相違点は空気の取り入れ口の位置でJ−9は胴体両側面に配置する案であったのに対し、J−10はF−16のような前部胴体下側となっています。また、主翼についてもJ−9が前縁の内翼部がかなりきつい後退角を有して外翼部で緩やかにして逆の角度構成にしたダブルデルタであったのに対し、J−10の主翼は前縁が直線のシンプルなデルタ翼になっています。J−10は一からの新設計ですが、J−9の研究成果も活かされているはずです。
 J−10試作初号機は1998年3月23日に初飛行、人民解放軍への引き渡しは2003年から試験部隊に始められ、実戦部隊への配備開始は2005年12月になります。

IAIラビ
イスラエルのIAI(イスラエル・エアクラフト・インダストリーズ)が1980年後半に開発した戦闘機で「J−10」に似た形状です。ラビは米国の圧力によって開発中止になり、このラビに係わった技術者が中国に技術提供したとも伝えられていますが、中国とイスラエル両国とも否定しています。J−10を開発するなかで、カナード翼付き無尾翼デルタの構成の特徴である”安定性を劣化させて敏捷性を高める”を実現するために必要なフライ・バイ・ワイヤ操縦装置や運動性向上技術機(CCV)概念といった、当時の中国の技術的に欠けていた部分を如何に克服するか大きな問題となっていたようです。そこにイスラエルが手を差し伸べたのではないかと言うわけです。

イスラエルが1980年代に開発したラビ。J−10と似ているが、J−10の方が全長で2m長く、翼面積も大きい。

実用化と各種

中国新華社通信はJ−10について2005年12月29日に実戦部隊への配備が行われたと報じました。初期のJ−10はJH−7が搭載したロシアのズーク・レーダーの中国独自の派生型である「真珠」レーダーを搭載していましたが、これはズークの能力低下版といえるものですぐに能力を高めたタイプ1471(KLJ−1)に変更されています。またエンジンに関してはSU-27に搭載されているものとほぼ同型のロシアから提供を受けたサチュルン/リューリカAL-31FNターボファンを備えられました。こうした標準戦闘機型がJ−10Aで、兵装類は機外11ヶ所のステーションに搭載し、搭載重量は6,600kgです。コクピットを縦列複座にした訓練型がJ−10Sで、訓練用の電子機器の追加搭載のためコクピット後方の盛り上がりが少し大きくなっています。J−10は曲技飛行チームの八一飛行表演隊の使用機で、このタイプはJ−10AYと呼ばれ、複座機はJ−10SYと呼ばれます。

J−10A 空気取り入れ口の開放部が長方形で胴体下面と間隔をもってつけられているいるのがよくわかる。
J−10S J−10の複座型

空気取り入れ口を胴体側に膨らみをもたせて胴体との隙間をなくした、ダイバーターレス超音速インレット(DSI)にしたのがJ−10Bで2008年12月に試験機が初飛行して2013年5月に量産化され、2014年10月に人民解放軍空軍への引き渡しが始められました。J−10BではDSI型空気取り入れ口の採用を含めてレーダー反射断面積を低減するステルス性の向上もある程度図られているようです。J−10Bは搭載電子機器の新型化で搭載されているXバンドレーダー(パッシブ・フェイズド・アレイ式ともいわれている)は10目標同時追跡、そのうち4目標との交戦能力があるともされています。またレーダーや電子機器の一定レベルの統合化により制空戦闘だけでなく、近接航空う支援や電子戦闘などの任務にも投入可能と伝えられています。このため制空ミッションの際のPLシリーズの空対空ミサイル搭載を基本形態として、KD−88/−88A空対地ミサイル、LS−500Jレーザー誘導爆弾、鷹撃91対レーダー・ミサイルなどの攻撃兵器も多くの組み合わせで運用されます。J−10Bは主として搭載電子機器の改良が継続、2013年に最終仕様が確定されたとされ、エンジンはAL-31FNシリーズ(134.4kN)になりました。2017年12月には排気口を推力偏向式にかえた機体も初飛行しています。

J−10B 空気取り入れ口が設計変更されDSI形状になり、胴体下部にも機外ステーションが追加されています。

J−10の最新型とされるのがJ−10Cで、DSIや搭載エンジン(推力偏向排気口装備)等のJ−10Bの特徴は引き継ぎレーダーを始めとする搭載センサーがアップデートされているとされます。レーダーはAESA型(アクティブ電子走査アレイ)になり、風防前にはIRST(赤外線捜索追跡装置)が備えられ、これがJ−10Bとの外観上の少ない相違のひとつです。搭載兵器については射程200km以上早期警戒機の破壊する能力を有する超長射程空対空ミサイルPL-15、レーザー誘導ポッドの搭載も可能でレーザー誘導爆弾投下能力も有するとされます。エンジンについては最近になって中国メディアからロシア製ターボファンAL-31Fに替わり総合性能に優れる国産エンジンWS−10に全て換装されているとも報じられています。このエンジンの国産化は自身の作戦能力を向上させ、本機種の輸出が可能になりました。パキスタンからは2021年12月28日にJ−10Cについて突如購入の発表があり(J−10Cの輸出型でJ−10CEと呼ばれる)2022年3月11日に最初の6機が引き渡されました。
 J−10Cについては初飛行は2013年12月31日、2018年4月就役開始とも伝えられますがはっきりしていません。
 最新のJ−10Cは装備内容から4.5世代戦闘機に相当するといわれています。
 J−10はJ−10Aを中心に総生産数は800機以上、人民解放空軍、人民解放海軍双方で運用されていてSu-27系統と双璧をなす主力多用途戦闘機として運用されています。

J−10C J−10Bとの外形上の違いは垂直尾翼上端にVLOC(超短波全方向式無線標識/ローカライザー)アンテナがあることと、空気取入口脇および垂直尾翼にミサイル接近警報装置のセンサー・フェアリングがある程度でかなり見分けは困難です。

Data殲撃10A(推定値)
全幅9.70m
全長15.50m
全高4.78m
主翼面積39.0m²
カナード翼面積5.5m²
空虚重量9,730kg
最大離陸重量18,500kg
エンジンサチュルン/リューリカ AL-31FN(ドライ79.4kN , A/B 122kN) x 1
機内燃料容量4,950L
最大速度マッハ1.85
実用上昇限度18,000m
戦闘行動半径250~300nm
フェリー航続距離1,000m
乗員1名

保有数 : 中国人民解放軍空軍 J−10A(220機)、J−10B(180機)、J−10S(48機)、J−10C(360機) 中国人民解放軍海軍 J−10A(16機)J−10S(7機) パキスタン空軍 J−10C(12機)

パキスタン空軍のJ−10CE
 2025年5月カシミール地方の帰属問題からインドとパキスタンの間で起きた軍事衝突で7日、両国国境を挟んで両国空軍によるBVR(視程外射程)戦闘があったとの報道がありました。真偽はともかくパキスタン当局は「インド空軍との空中戦は現代戦史上最大かつ最長のものだった」「計125機の戦闘機が1時間以上に渡って戦闘を繰り広げた」「両軍の戦闘機は自国の領空を離れることはなかった」「時にはミサイルの応酬が160km以上も離れた距離で発生した」などを述べています。また7日この戦闘で仏製戦闘機”ラファール”を含むインド軍6機を撃墜したと主張しています。インド側はこの主張に対して沈黙していますが、ロイター通信はラファール撃墜を米当局者の話として事実であると報じました。中国系香港紙・大公報は5月9日撃墜が事実ならJ−10Cが空対空戦闘で撃ち落とした最初の事例になると指摘しました。
 遡ってパキスタン空軍は2022年3月11日にカーン首相を始めパキスタン政府・軍関係者及び中国軍関係者出席の元、”殲−10CE(J−10CE)”の受領開始し記念式典を首都イスラマバードで開催しました。この式典の際、カーン首相は「力の不均衡を是正する」と述べました。これは敵対するインドが先にラファール+長射程ミサイル”ミーティア”を導入していた事を受けて意識した発言とされます。
 今回の戦果のパキスタン当局の言及に懐疑的な論調もあり、様々な憶測が飛び交っています。

パキスタン空軍のJ−10CE

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By chikumade233

中国人民解放軍主要装備他、気の向くままに軍事に関して掲載します。

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